エルサレムが軍隊に包囲されるのを見たならば、その時は、その滅亡が近づいたと悟るように・・・
それは、聖書に記されたすべてのことが実現する刑罰の日であるからだ。
(ルカによる福音書 21:20:22)


序章

ダミアンの死後6週間。しもべ達はダミアンを殺した女に忍び寄っていた。女が寝ている間は家を見張り、仕事の行き帰りには跡を付け、女が友人宅を訪問すれば、出てくるまで外で待っていた。指導者ダミアンの死以来、仲間の力は衰えていた。自殺したものもいれば、自室にこもって1歩も外へ出られなくなった者もいたが、生き残ったもの達はみな復讐に燃え、その気持ちが絶望に勝っていたのだった。

ある日、女は診療所を訪れた。2人のしもべが跡をつけ、待合室で女の側に座った。2人は女の緊張した表情に注目した。明らかに苦しんでいる。2人はそれを満足そうに眺めていた。

「ミス、レイノルズ」受付係が女の名を呼び、ドアのほうを指さした。女はゆっくりと身障者のような歩き方で部屋を横切って、ドアを開けた。見知らぬ顔が女を見あげた。それは、新顔の若い医師だった。女は当惑して、まばたきをした。
「ジョンストン先生はお辞めになったんです。まあ、お座り下さい」
女はドアを閉め、医師のデスクの側に座った。
「鋭く刺すような痛みなんです」
女が自分の下腹部を押しながら言った。
「むくんだような感じで」
と言うと女は咳をして胆汁を吐いてしまい、医師に謝罪した。医師はやさしく女を診察台に寝かせて、ゆっくりと診察し、それが終わるとある住所と名前を処方箋に書いて女に手渡した。
「私の同僚がハールレイ通りのはずれにいます。彼はこの手の専門家なので、会ってもらいたいのです・・・」医師は少しためらってから 「今すぐに」と言った。女は無言でなぐさめの言葉を求めてその医師を見た。
「何も心配することはありませんよ」と医師は言った。女は立ちあがろうとして痛みでたじろいた。
「あの、なにかお薬はいただけませんか?」
「お気の毒ですが・・・」医師は厳しく言った。「この段階で痛み止めはおすすめしたくないのです」

そして医師は、女が出て行くのを見守り、2人の男が見上げるのを見てドアを閉め、受話器を取り上げた。
「シカゴにつないでくれ」
電話がつながるのを待ちながら医師は満足気にほくそえんだ。
「死の真っ只中に生がある・・・・か・・・」


女は手術台に仰向けに横たわり、2人の看護婦に腕をつかまれ足は無理矢理開かされ足首は台に縛り付けられていた。その腹はふくれ、皮膚はピンと貼り織物の風船のようだった。体が周期的に痙攣する。女は喘ぎながら哀願するように看護婦の一人を見た。
「もうすぐです」その看護婦は言った。
するどい痛みが体中を貫き、女は口を開けたまま絶叫で窒息しそうだった。医師は外科用のメスに手を伸ばした。
「ちょっとした切開をする。圧迫を和らげられるだろうからな」
外科医が女の方を向いてかがんだと同時に女がまた金切り声を上げた。看護婦が当て布で女の顔を覆った。
「クロロホルムはいらない!!」外科医は怒鳴った。「意識が必要なんだ!!」
女の身体が痙攣する。
「出るぞ!!おさえろ!!」
女の背中が弓なりに反り返り、頭を振って再び金切り声をあげる。それは自分の身に起こっている恐ろしいことに対する抗議の叫びであった。そして、声が消え体内から何かが出ると、女は台の上にばったり倒れ、まないたの上の魚のように身を震わせた。外科医は看護婦に何かを手渡し、まるで祈るように床をしばらく見つめ、それからドアに向かった。彼は手も洗わず、ただゆっくりと廊下へ歩いていった。
看護婦の一人がついていき、外科医がベンチに座っている老夫婦に近づくのをじっと見ていた。
無遠慮で残忍な言葉が聞えた。
「できる限りのことはしたのですが・・・」
老婦人は夫にもたれかっかた。
「腫瘍が少し大きすぎました」

看護婦はドアを閉め、ふりかえり同僚からその固まりを受け取り、それを見つめた。男の赤ん坊だった。彼女は思わず丁重にお辞儀をした。するとタイルの上で獣の足音がした。ふりむくと頑丈な顎をした1匹の大きな黒犬が側に近寄って来ていた。看護婦が赤ん坊を床に置くとその犬は上にかがんでその子をきれいに舐めた。
赤ん坊の両腕が犬に届き小さな指が犬の毛皮をつかんでいた。看護婦にはこの子がうれしそうに笑った声が聞えたような気がした。彼女は死んだ女をちらっと見てもう一人の看護婦にその死体を隠すように合図した。彼女の眉間にしわが寄ったが、赤ん坊を見下ろすとニッコリした。
「忌まわしき者・・・」彼女は誇らしげに言った。

アパートや住宅地、事務所や工場でダミアンのしもべ達は新しい指導者の誕生をささやいていた。絶望していた者たちは今や新しい希望に燃えていた。

そしてイタリア中部の修道院ではデ・カルロという名の司祭が狭いベッドの中で体中に冷や汗をかいて起き上がった。自分が悪魔を倒すのに失敗したことと、最悪の事態はこれからだという確かで恐ろしい認識で悪夢から目覚めながら・・・・。


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