2部

10章

エレベーターの中でフィリップ・ブレナンは2人の若者に微笑んでこんばんわとささやいた。最初ブレナンは彼らの会話にまったく注意を払わなかった。彼の心は未だに外交用郵便袋の中身でいっぱいだった。ブレナンはその問題を後回しにしようとマーガレットの言葉を考えながら深く息をした。心をすっきりさせるために旅行の家を使うべきだと、そうすれば一緒に夕食ができ、旅行のことについて話せるから、と。彼女は正しかった。自分はワーカーホリックになる危険があった。
「想像できるか?呪われたジャンボジェットの外に・・・」
会話が彼を通り抜けてぼちぼち取り交わされた。
「具合悪くなるって言っただろ」
「乗客名簿から消去法で識別したんだ。シカゴの男で何かの骨董商・・・」
ブレナンは振り返って彼らを凝視した。
「なんのことだ?」と彼は尋ねた。
「誰がシカゴからだったって?」
「どっかの不幸な男がケネディに上陸する時にジャンボから落ちたんです」
若者の一人が言った。
「ニュースでやってたんですよ」
「そいつの名前はフィンか?!」
「ああ、そ、そうです」
男は驚いてブレナンを見た。
「知ってる人なんですか?」
エレベーターのドアが開き、ブレナンは頭を振りながらありがとうとささやいて歩き出した。2人の若者は彼が廊下を行くのを見て、その後に従った。
「変だな」と一人が言った。
「働きすぎなんだよ。中東の用件でワシントンとロンドン間で使い走り役を務めたら面白いはずがないさ」
ドアに近づくと彼らはお互いに肩をすくめた。
「2マイル車輪で引きずられ、こすれて押しつぶされたそうだ」
「ああ、ひどいもんさ。おまえ、ビール飲まないか?」




 その晩ブレナンは彼の心からマイケル・フィンを排除しようとした。しかし、あの男の嘆願するか細い声と顔が自分の心に刷り込まれているようだった。ブレナンは食欲もなく、上の空でマーガレットの質問に答え、彼女が旅行の計画について話すと頷きながら夕食をつついた。
「おもしろいわね」
とマーガレットが指でブレナンをつついてとげとげしく言った。
「私が話しているのにあなたは腕時計を見ているんだもの」
ブレナンは謝って、主要なニュースに遅れないようにテレビのスイッチを入れた。フィンの死亡のニュースはほんの数分でほとんど最後のところだった。ほんのあとからの思いつきでニュースのアナウンサーがパンナムは事故調査をしていると言っただけだった。
「不運なチビスケだ」
とブレナンが言った。
「たぶん酔っ払ってたのよ」
とマーガレットが言った。ブレナンは彼女の無神経さににショックを受けて、驚いて彼女を見た。しかし、彼女はただ微笑んで彼に寄り添った。するとブレナンが乱暴に彼女を押しのけて何も言わずに大またで部屋から出て行ったので今度はマーガレットが驚いて見る番だった。

フィンの包みはすでに雑誌記事の山の間に開封されずに投げだされていた。ロンドンホテルのアドレスがヘッドに載っている1枚の紙がメモの最初のページにホチキスでとめられていた。
「親愛なる、アンバサダー様へ」彼は読んだ。
「興味を持っていただいてありがとうございます。どうかこのメモと手紙を私が示した順番にお読みください。最後まで読み続けていただきたいのです。私はある具体的な証拠と共にもうすぐ連絡をします」
フィンの署名はきれいで読みやすかった。そして後に追伸が続いていた。


最悪のものが情熱的な激しさに満ちている間
最善のものはすべて信頼を欠く。
そうだ「再臨だ」

ブレナンはブランデーのビンに手を伸ばして、自分のグラスに注いだ。マーガレットが最近自分が飲みすぎだと言っていたが本当にひどかった。ブレナンは最初の手紙を広げた。
神父さま、来週私は入院することになっております・・・・
ブレナンはブランデーをすすって、ページに直接当たるようにデスクランプを動かし、より近くに傾けた。彼が読み終わったとき2番目の手紙が届いた。
神様お許し下さい。私は罪深こうございました・・・・・・
ブレナンはうなって手で額を拭った。またこれだ。彼は自分の椅子にもたれて座り、メイ・ラモントからの手紙をこぶしの中に握り締めた。心の一部ではそれを押しつぶして捨てるのを望んだが、好奇心の握りの方が強かった。ブレナンは体を前に倒してそれを読み通し、手紙をきちんと封筒にしまい、それから「サン ベネデット 修道院」とヘッドにきちんとタイプされているメモの束を拾い上げた。
デ・カルロ神父は感心なほど簡潔に18年前出来事を書いていた。カシオペア座の中で星の配置が一致した時、いかにして彼と6人の修道士がアンチキリストを倒すためイギリスに行ったか、いかにして自分たちがその力と戦かったか、そして6人の修道士がいかにしてその命を絶ったかを。
ブレナンは眉をひそめて詳細のページへと指でめくった。しかし、そこには何もなかった。デ・カルロは物語を続けていた。曰く、3つの星の提携はキリストの再臨を示し、アンチキリストは最後には破壊されると。
ブレナンは最後の文章をしわがれたささやき声で読み出した。
「それは最後の闘いだった。しかし、私は失敗した。神が次の男あるいは女を導く、これ以上ミスはしようのないように。神の子がこの地を歩く。アンチ・キリストの魂は生きている。まもなく最後の日に遭遇するに違いない」
最後の手紙はマイケル・フィンからだった。
「理解するためには聖書が必要だ」

ブレナンは立ち上がりふらふらしながら本棚に移動した。聖書は埃まみれだった。ブレナンは最後にこれを開いたのはいつだか思い出そうとしながら息を吹いて咳をした。フィンは明確にメモを書いていたのでブレナンは命題に従うのにまったくてこずらなかった。
「そして主はモーゼに話をした」
彼はレビ記から読んだ。
「そして50年目の年を祝うべきだ・・・記念祭はその50年目の年にあるべきである」
「なぜなら国が国に対して立ち上がるべきだからだ・・・」
ブレナンはフィンのメモをちらっと見た。
「これは第一次世界大戦を示唆していると信じている人々がいる。其処には飢餓と伝染病と地震がある。(マタイによる福音書章)そして実際にそれはイタリア、中国、日本で起こった」
「それらすべてのことが起こるまで、この世はけして滅亡しないだろう」
「最後の日は、マタイの福音書によると始まりに過ぎなかった」とフィンが書いていた。
「そして今第2次世界大戦、世界的な飢餓、記念祭の年にイスラエルに爆撃、、少数の生き残った世代の人々だけがものすごい戦争を見られるだろう。それが聖書だけでなく、Justin やTertullian のような学者の言葉で予言された。最後の日はまもなく来て終わるはずだ、と」

ブレナンは目をこすってボトルに手を伸ばした。
「最後の日」
彼は読んだ。
「記念祭、アンチ・キリストの上昇、われわれの主、キリストの再臨、イスラレル上の最終戦闘、それはフルセットのピースがあるジグソーパズルだ。それらを組み立てろ。そうすれば結論は必要ない。ジグソーパズルの箱の上の写真はアーマゲドン、イスラエル上で戦われた、善と悪の間の最終戦争だ。
「我々が予言の残りが本当になるよう祈れば、最終戦争がミレニアム、千年の平和にとなって後に続くだろう」
ブレナンは手紙を脇に押しやり
「でもどんな種類の平和なんだ?」
と声をを出して言った。
「死者の平和、機能を失った惑星の平和か?」
ブレナンはその考えを消すために頭を振って、ボトルに手を伸ばし、すでに3分の1飲んでしまったことに気がついたがそれでもいつグラスに補充していたかを思い出せなかった。
最後の書類はキャロル・ワイアットの論文のコピーだった。ブレナンはそれを一瞥したが、もうそれ以上読む気にならなかった。
「狂ってる」
とブレナンはしわがれた声で言い、立ち上がってランプをパチンと消して少しつまずきながらドアへ向かった。
マーガレットが眠っているようにと彼は願った。結婚当初は自分の上の彼女のしつこい指を感じずに彼女の声を聞くことはなかった。ブレナンは静かにマーガレットの横に滑り込んだ。彼女は深く息をしていてほとんど動かなかった。一瞬の間ブレナンは開いた窓を通して夜空を見つめ何もせずに星座の名前をつけようとして、それから諦めて目を閉じ、そし直ちに眠りに落ちた。



ブレナンは洗礼盤の前に立ち、マーガレットが赤ん坊を抱きながらその横に立っていた。聖歌隊が歌い、パイプオルガンが聖歌を吹き鳴らし、その音でブレナンは耳が聞こえなかった。彼は横に傾いて妻の頬にキスをした。彼は妻を誇りに思った。彼女はこの世に子供を産むことけして望んでいなかったが、よりよい判断に反してそれを成し遂げた。ブレナンは赤ん坊を見下ろして、ショールで包んだ。赤ん坊は彼を見て歯のない口でにこにこ笑い、太った腕を伸ばした。ブレナンがその掌をくすぐると小さい手が彼の指をつかんで握った。司教の声は歌声をさえぎった。ブレナンは眉をひそめた。その声を以前どこかで聞いたことがあることを思い出し、そしてそれはイリノイ訛りだと思い出した。ブレナンは向きを変えて赤ん坊のために腕を伸ばしているマイケル・フィンを見た。
「いけない」
その言葉を彼が唱えるとマーガレットが赤ん坊を渡すのをやめようとたが、ブレナンは動くことができなかった。フィンは洗礼盤の中に手を下げた。
「だめだ」
再び彼が怒鳴った。しかしだれも注意を払わなかった。彼はマーガレットと戦い子供を掴んだ。ショールが子供の体から滑り落ち、濃い油を塗った動物の毛がその肩に見えた。赤ん坊はクスクス笑って彼を見上げた。卑猥な言葉がその口から流れ、彼は大聖堂の中の悪臭に気がついた。フィンは洗礼盤から手を出して、子供の頭部に腐肉を塗った。再び子供が彼の手をつかんで笑った。聖歌隊は歌った。彼は子供から目をそらし、ドーム型の屋根を見つめてながら子供の握りから自分を解放しようとした。
たとい汝死の陰の谷を歩むとも、災いを恐れじ。
と彼が大声で言った。
そして今、小さい指が彼の目をえぐり、マーガレットが笑い、しつこく言う声を聞いた。
「何か間違ってるかしら?遊ばせてやって」
走りたかったが、足は動かなかった。彼は固く目を閉じて笑いのコーラスの上に自分の声を張り上げようと言葉を投げかけた。

彼は目をパッと開いた。

汝のムチと杖が我を慰む
ブレナンの声は寝室中にとどろいた。彼はきちんと座っていて、自分の手で自分の目を引っかいていた。ブレナンは自分の指の間を凝視し、マーガレットを見た。彼女は自分の後ろで片手でシーツを握ってもう片方の手を口に当て、目を大きく見開き怖がってまるで気が狂った者を見るようにブレナンを見ていた。
ブレナンは夢の残像物を取り除こうとして頭を振った。それからマーガレットに手を伸ばした。しかし、マーガレットは後ずさった。そしてまだ話し声を意識していなかったにもかかわらず自分の声が聞こえた。
我が頭に油を注ぎ給う、我が酒杯は・・・
マーガレットはまだシーツをしっかり握りながら、カーテンに背を向けてベッドから滑り落ちた。一瞬、ブレナンは彼女を見ながら横たわり、それから部屋に広がった悪臭から逃れようとして裸になってバスルームへ走った。ブレナンは自分の後ろのドアをバタンと閉めてドアに寄りかかるとまた彼の唇が動いた。
我が世にあらん限りは、 必ず恵みと憐みと我に添い来らん、 我はとこしえに主の宮に住まん。
ブレナンはため息をついて臭い息を吹き消し、左手で自分の顔をこすった。あごは柔らかくて滑らかで、そして丸い感じがした。手を自分の頭に走らせた。そして頭骨が交わらなかったかのようにそれが脈打って振動するのを感じた。そして鏡を見ると、濃い髪で覆われ口に嘔吐物をしたたらせている生まれたての赤ん坊がにっこり笑った。




 その朝ブレナンは朝早くデスクにいた。スピーチの準備があったのだが、それに集中することができなかった。悪夢の記憶を脇に押しやろうとしたがそれは難しく、さらに彼の思考に割り込んだ。朝の間中ブレナンはほとんど意味のない電話しながら、秘書をしかりとばし仕事をやり通した。昼食は外務省からの若い外交官と一緒の軽食だった。彼らは来るミーティングについて話した。ブレナンはテーブルを離れ、自分の記憶にギャップがあり、若者が握手した時にその若者が心配そうにちらりと一瞥を放ったことに気がついた。
ブレナンはデスクに戻って研究で離れて錠をかけていた小包について再び考え、ある名前が彼の考えの前に飛び出した。ブレナンはインターホンを軽く叩いた。
「ジム・グレゴリーを」
すぐに機械を通してチーフ報道官の声が出た。
「ジム、キャロル・ワイアットというリポーターがらインタビューの要請を受けたか?」
「ついこないだだとおもったけど。ちょっとお待ちいただけるかな?」
男が自分のファイルをチェックしている間に小休止があった。
「わかりましたよ」ジムが答えた。「短剣か何かについて奇妙な要請がありましたよ」
「彼女に会うと言ってくれ」
「お望みとあらば」
ブレナンは椅子にもたれて座り、国家の印章を見上げ鷲にウィンクした。
「彼は私が気がふれてると思うだろうな」
とブレナンはその鳥に独り言を言いオフィスを歩き回った。外では抗議者が広場を一周した。ブレナンは彼らを瞬きもせずに凝視して、インターホンが鳴るとびっくりしてビクッと動いた。
「グレゴリーです。あなたの探しているリポーターが消えたようです。彼女は要請を提出した日からいなくなっています」
「なんてこった」
ブレナンは椅子の中にぐったりと座り込んだ。
「どこかお悪いのですか?」
「いや、大丈夫だ」
「彼女が現れた時のためにインタビューを記録しておきますか?」
「ああ、だけど・・・」
ブレナンの声は薄れていった。
「先生?」
「・・・ああ、彼女を記録しとてくれ」
もう一人、ブレナンは指を折って数えた。レイノルズ、ラモント、デ・カルロ、フィン、ドゥーラン、そしてワイアット。みんな死んだかいなくなったか狂っている。司祭は唯一確かに生きているが正気ではなかった。あるいは・・・?司祭が狂っていないかもしれないという考えはそれだけで狂気じみた考えだった。もし、彼が狂ってなかったら、その時は考えるに値しないのだから。
再びインターホンが鳴った。秘書がどんな電話にもでたくないことを知っているが、ワシントンからなのでと言った。それは国務省からだった。ブレナンは電話を拾い上げて口ごもりながら挨拶した。旧友ビル・ジェフリーだった。彼らは大学が一緒で、今が国務省を牛耳っていた。外務大臣のミーティングについての電話だった。ジェフリーは言った。
「それは私が払う」
「おお、それでだ、フィリップ、来月休暇を取るそうだね。気の毒だが延期しならければならないようだぞ。よくない時期だ」
「ああ、確かにね」
「たぶん秋だろう」
「そうだ」
心に考えがよぎるとブレナンは受話器を置こうとしていた。ジェフリーはいい奴で分別がある男だった。自分の要請に不安になることはないだろう。
「ビル、公式な発掘をするにはどうしたらいい?」
「それは誰であるかによるな」
「ダミアン・ソーンだ」
「何?フィリップ、何かあったのか?」
「ソーンの死体が彼の墓にあるかどうかを調べる方法があるか?」
「何言ってんだ、フィリップ」
「ばかげてると思われるのは百も承知だ・・・。だがそれは可能だろうか?」
「分からない」
「その手続きを見つけ出すことができないか?目立たないように」
「ああ、たぶんね。でもなぜだ?」
「話したら、献身的にしてもらわないとな」
古い学友である2人は一緒に笑った。そしてブレナンは受話器を置くといっそう気分よく感じた。まるで自分の負担のいくらかを共有したかのように。


ワシントンで、ジェフリーは自分の秘書を呼んだ。
「ソーン社に連絡しろ!今すぐだ!」


途中あやふやなところあり、
聖書読まなくちゃ・・・といいつつ
11章へつづきます


第2部第11章へ

 

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