
| 本当に何十万もの大集会だった。ロンドンは東の金融街から西のスローンスクエアまで塞がれた。オックスフォード通り南からテムズ河岸通りそして、トラガルガースクエアの中のすべてが渋滞で動けなかった。警察と報道機関は群集の数を見積もろうとするのを諦め、頭に入った最初の数を発表した。以前の核兵器廃止運動行進のお祭り気分はなかった。広場に入ってプレーするミュージシャンも演劇集団もなく、毎分ごとに群集が密集していくのを警官が馬の背に乗ったり降りたりしながら静かに見つめていた。 最初のスピーチは午後2時の予定だった。そして1時半に、ポール・ブーハーのリムジンがピムリコで停止した。後部座席でブーハーと少年が人々が道を開けたその一つの方向を見つめた。多くの者がスケルトンの衣装、その他の者は白装束を着ていた。忌まわしく燃やされたように乳母車の中の赤ん坊が作られていた。少年はにっこりし、そしてクスクス笑った。それから犬が床から頭を持ち上げてうなった。 ブーハはドアにセットされたコンソールの中のボタンを押して格子窓の中に話した。 「何があった?」 運転手の声が後部座席に響いた。 「がっちりと塞がれました。警察無線によるとここからずっと渋滞だそうです」 「くそっ」 とブーハーがいい、無言でなぜ少年が大集会に来ることを強く主張したのだろうと自問した。彼らしくなかった。いつもは好奇心に悩まされるなんてことはなかった。 「歩いて行こう」 と少年が言った。 「でもけっこうあるぞ」 とブーハーが反対した。 少年は何も言わずドアを開けて群集の中に歩み出た。犬が彼の後を歩き、ブーハーはため息をついて自分たちを拾える場所を運転手に指示して少年の後に続いた。彼らは群集と同じペースで歩いた。彼らの前を小走りしていたシェパードが振り向き少年と犬を見つめ、耳を頭の後ろにたおして横丁へ駆けていった。 湿気が多い日で群集は汗をかいていた。少年は鼻孔がピクピクし、犬の頭の上に手を置いていた。ブーハーは腕時計を何度もチラチラみながらその後ろで移動していた。ホワイトホールでのミーティングは今は本会議総会で、自分のスタッフが本部に報告している時間だ。自分のオフィスニいるべきだった。こんなばかげたことは必要はなかったのに。旗を運んでいる青年にぶつかったブーハーは文句を言った。 「気をつけんか!」 きつく言うと悪気のなかったその若者はブーハーの敵意に眼を大きく見開き傷つき困惑して後ろに下がった。ここにいるみんなは世界を救うため一緒に行進している同じ心じゃないのかという顔をして。 「バカ者が」 とブーハが不平がましく言った。こんなやつらには軽蔑しか残ってなかった。世間知らずでいまいましく羊のような現実を何も知らないバカどもだ。 厳しい顔をしてブーハーはショッピングセンターに沿ってトラファルガー広場に向かって少年の後ろに従った。もう拡声器のバリバリいう音と群集のどよめきが聞こえた。すさまじい拍手喝采の波は警察のヘリコプターのブンブンいう音によって中断された。 彼らが広場に着くと群集は動かず密集していたが、少年と犬は無理矢理通り抜けブーハーはしっかり彼らの後ろに続いた。前に押されいらだって文句が出たがそれはすぐに犬の視線によって押さえられた。動かなかった一人の男がすごい頭でど突かれて下を見ると犬が彼にうなっていた。 地面から20フィートの高さに建てられ、向こうの演壇を見ている石のライオンの一つを背に彼らはネルソンの円柱に足をのばし自分たちのスペースを作った。2つの有線テレビのスクリーンが演壇の両側に高さ15フィートで設置され、この運動創始者の一人の孫で群集に人気の高い労働党内の極左派の政治家である若い話し手がクローズアップされて映っていた。彼の声は2つのスピーカーを通して中継され広場にこだました。 「ボンで、パリ、ハーグ、ローマと多くの他の都市で同時に類似のデモンストレーションが起きています」 群集はぎこちないフレーズに賛成の声を上げた。 「5時間以内にワシントンでも行進があるでしょう。明日は極東とオーストラリアの番です。モスクワ、プラハ、ブダペストとワルシャワでの我々の友人たちは我々の奮闘を知って闘争のための力を増すでしょう」 ブーハーはあくびをした。 「そこで」若い政治家は言った。 「ジェームス・ブラハムです」 ノイズが鼓膜を打ちのめした。ブーハーは両手を頭にあて円柱の土台によじ登っている少年を見上げた。彼は見た限りでは誰かを探しているようにだった。そしてゴールデンラブラドールに導かれ演壇を歩いている白髪の背が高くほっそりした人物に眼を固定した。その犬はまるで糸でひっぱられるようにマイクロフォンに近づいて座わり、老人を見上げマイクの柄の方へ彼の手を少しずつ動かし、そうしておとなしく座った。それがしばらくの間の仕事だった。男は両方の手を上げた。左の手首から革ひもがぶら下がっていた。 ブーハーは群集をざっと見回した。群集は拍手し大声をあげ、口笛を吹いている者もいた。忠誠心に欠けることを除けばダミアン・ソーンのしもべたちの反響を髣髴させられた。これらの人々はジェームズ・グラハムに命を捧げるだろうか。その上彼のために殺人を犯すだろうか。ブーハーはそれを疑った。 スクリーンに老人が鮮明なフォーカスで映しだされた。その顔はこぶだらけで盲目、黒淵の眼鏡にカメラのフラッシュが反射していた。彼はバートランド・ラッセルの最も当然とされる後継者だと評されてきていた。哲学者で人道主義者、政治家より賢明、知識人と労働者を一緒に集めることができるのは雄弁の賜物だった。 ブーハーは再び少年を見上げた。少年はスクリーンも群集も無視してグラハムを凝視していて彼の視線は老人の顔に定まっていた。ブーハーは何かが動くのを感じて彼と少年の間の犬を見下ろした。犬も前足を柱脚にかけてまるで催眠術をかけられたかのように同じように演壇を凝視している。グラハムが手を下げると、まるでだれかがスイッチを押したかのように騒音はぴたっとやんだ。彼は雷のような音をさせて咳払いをして鼻をかんだ。盲導犬の耳がそばだてられ彼に問題ないかチェックするように彼を見上げた。 「友よ」 彼の声は深く、そして強かった。 「かつてこの都市でこんな大きいデモンストレーションは見たことないと言われている」 騒音の振動が始まったが彼は手を上げることで直ちにそれを鎮めた。 「非常に素晴らしい男であるジェームズ・キャメロンというジャーナリストは我々の運動の創始者の一人で、かつて我々に同じような目的を持つ組織について語った。『私は願った。 神にオックスファム(オックスフォード貧窮者救済機関)がなくなりますように』と。」 グラハムは一呼吸おいて 「私は彼の言葉を繰り返す。私は神に核軍縮のためのキャンペーンが、その存在の必要がなくなることを願う」 今度は抑えきれない喝采が巻き起こり、グラハムは無言で左右を見つめた。彼が再び片手を挙げた。再び静まり返った。 「今日の午後ここから1マイル以内で、50年を超える間ごとに変化しながら存在する危機に何かをしようという試みのための会議が行われいる。その危機は中東としてしられる地球の一部を脅かし、拡大し、我々すべてを脅かしている。我々は政治家に分別と決断力を望む。しかしこのような願望では十分ではない。私が彼らに要求している願望はこんなもんじゃない。彼らやあなた方兄弟に要求することは単純そのものだ。それは私が今まで常に要求してきたことだ。それはただあなた方が我々の旗のもとで政府のために立候補する男女を選ぶこと・・・」 賛同の声 「あなた方が見当違いな党利党略の政治(公共の利益より政党の利益を中心とした政治)を忘れること・・・」 また賛同の声 「それはあなた、あなた方の一人一人が、単に我々の種の生存にピントを合わせてわき目もふらずに人類の救済のために行動することだ」 ゆうに1分間広場は群集の喝采が反響した。ブーハーは左の方で警官のグループが演壇を凝視して他の者とともに拍手しているのに気がついた。ブーハーは頭を振った。人はどうやって長時間現実の代わりに単調をがまんできるだろうかと。 「政治的な討論なんてものは不毛だ。どんな意味があるというのか」 グラハムが問いかけた。 「ない」 とリハーサルでもしたかのように群集が怒鳴りたてた。 「瓦礫と化す惑星で社会を2者選択形式で論じることになんの価値があるのか」 再び「ない」の声 老人が両手を上げると革ひもが引かれたのに気がつきあの犬が立ち上がった。 「あなた方の多くが知るだろう」 グラハムは言った。 「私は宗教家ではないことを。それでも私はポールの2通目の書簡を引用しよう」 彼は喉を咳払いをした。演壇の床を引っかきながら犬は群集の向こうを見た。 ![]() ブーハーは少年がその凝視をその盲導犬に移して瞬きもせずに見つめているのに気がついた。 グラハムは言った。 「『これも知っているだろうが、最後に日に危険な時が来るだろう。なぜなら人は自己を愛し、強欲で、うそつきで、高慢で、親不孝で、感謝の心がなく、神聖でなく、神を冒涜し、生まれつき愛情がなく、・・・・・・・・・・・・』」 盲導犬は後ろ足で立ち上がり、頭を動かし空気の臭いをかぎながら前足を顔に交差させもう一度姿勢を落とした。 ブーハーにはそれは今直接柱の上の少年を見ているように思えた。 「私は信仰を持っているあなたがたが神に祈るように求める」 とグラハムは言った。 「そして信仰のない者たちには自分の知性を見るように求める」 スクリーンがロングショットに切り替わりと同時に少年が犬を見つめると、群集には盲導犬が首の周りの毛を逆立て口から涎を垂らしながら演壇をひっかくのが見えた。 「私のテーマは・・・」 老人は続けた。 「新しくはない。しかしそれが現在の状況でいっそうひどくなっている」 犬が飛びつき主人の顔に噛み付いた。老人はマイクのコードが足に絡まり後方へよろめき、彼が転ぶと、彼の悲鳴が増幅され広場の周りで反響した。誰もうごかなかった。演壇の端にいた執事たちはしばらく釘付けになり、反応できずに立ちすくんでいた。 老人がよろよろと自分の足ではいずるのを許して、犬は後ろに下がった。 革ひもがまだ手首に巻きついていた。 「なんてこった!」と彼が息をつくとそのささやきが広場にシュッという音で広がった。老人が片手で自分の顔に手を置くと、すぐ近くの者は彼の指の間から血がしたたるのを見えた。テレビディレクターが本能で行動し、カメラをクローズアップにし、グラハムの引き裂かれた顔がスクリーンいっぱいになると群衆は息をのんだ。眼鏡が片耳にだけかかったグラハムの血だらけの指が空の眼窩をかきむしった。執事たちがグラハムに向かって走ってくる。 犬は彼らの方に向きを変え後ろに老人をひきずりながら演壇端へと飛びつき彼らをそして群集を見つめた。 犬が宙に身を投げ、グラハムが演壇の上から倒れる前に眼が見えないまま無駄に空を掴んだと同時に唯一誰か1人の女性がその後を予期して金切り声をあげた。カメラが彼を追いマイクが音を拾う。ステレオシステムは犬が20フィート下のコンクリートに落ちると同時にグラハムの頭蓋骨が砕ける音と断末魔を完璧にキャッチした。そしてグラハムに向かって走り寄る者たちの叫び声、ショックを受けて沈黙して立ち尽くす群集の中にそのざわめきがこだました。マイクロホンのコードは黒いへその緒のよう演壇の先からぶら下がっていた。 少年が初めて反応した。彼は、振り返り30ヤード離れたところに立つ栗毛の警察馬を見つめた。10頭の警察場がV字形に群集を2つのセクションに切り離し、ホワイトホールが見通せるようになった。騎手がしかめっ面で鞍の上で身もだえし、馬のあたまが向きを変えた。警察官がたづなを引いたが、馬はまだ目を見開いて少年を見つめていた。馬の鼻孔がぱっと広がり歯を見せてやわらかくいなないて唇をはためかせた。他の馬もその馬の方に向き直り円柱にいる少年の方を見つめるのに従った。 しばらくの間大きな馬は動かずにいたが、眼だけがパニックで大きく開き後足で立ち、頭を激しく上下に振って他の馬を引き連れて駆け出した。3人の警察官は馬の急変で落馬したが他の者は鞍にしがみついて馬の頭を後ろにぐいっとひっぱったが、その勢いを止めるには不十分だった 。 栗毛の馬のひづめの下敷きになった最初の死傷者は腕を組んで横断幕を掲げていた若いカップルだった。彼らの叫び声はジェームズ・グラハムの体の周りで増幅された男女の声として途切れ途切れに流れた。 乗り手のいない馬たちは遠くの群集に激突した。他の馬は恐怖と死の臭いをかぎ分けて荒れ狂った。円柱に身体を押し付けながらブーハーは乗り手のいない馬がその駆け足で男女を下敷きにし、それから立ち止まり向きを変えてバリアを障害物競走のように跳び超え若者たちのグループに落ちてきて砲火のような音をたてて前足を折ったのを見た。 馬たち最初の突撃は水に石を投げたような効果があった。男女が我先に逃げようと争う混乱のさざなみが広場の外側に広がっていった。 ブーハーは別の馬が乗り手を投げだすのを見、肩の上に手を感じた。見上げると同時に少年に引き戻されしがみつかれた。少年は唇を舐めながら目を輝かせていた。 混乱の中にありながらカメラはまだ作動中で眼下の画像を捕らえ巨大なスクリーンに提示していた。 無数の人々に押し倒される前にどこか安全なところへと周りを伺いつつ自分の子供を高く保ちながらよじ登ろうとする若い女性をブーハー見た。 再度向き直ると少年のつぶやきが聞こえた。 「単なる無政府主義はこの世から消える」 ブーハーは身震いし、自分を石柱に押し付けた。悲鳴が頂点に達しそして突然消えた。 まるでだれかがスクリーン上でフレームを凍らせたかのように、動きが止まった。 広場の南東の角では、ホワイトホールを安全に導くバリアが壊されて、その背後で跳ね上がる馬たちがきれいに広がり続ける余地を残して群衆が安全のために押し寄せていた。 まだ息をする余裕があった。 男性、女性、そして子供たちが大虐殺のショックの中でつぶやき、みつめながらよろめく。 ブーハーは円柱の下から踏み出て周りを見回した。警察馬が数ヤード先で倒れて死んでいる。その下に片腕を敬礼しているように上げて乗り手が押し潰されていた。 ライオンの石像の1つの台座を背景に体の山が乱雑に積み重なり偉大な合成動物のようにその山が震動していた。 悲鳴はトーンを変え、負傷者と死にゆく者のうめき声になっていた。 担架を持った救急隊員がその中で動き始めた。ハイエナが襲うようにニュースカメラマンがその後をつける。 1人の若い男が馬に押しつぶされて動かずに横たわっていた。ガイコツのコスチュームを身にまとった彼の骨はグロテスクな角度で体から突き出ていた。 一匹の馬がひづめを高く持ち上げまるで水仙の野原を歩いて通って抜けるかのようにその体の中を優美にゆっくり進んだ。 他の物は動かず頭を上げて、唇がぴくぴく痙攣していた。 少年は地上に跳び下り、ブーハーの腕を掴んだ。 「車はどこにある?」 ブーハーは頭を振った。思い出せなかった。少年がしばらくの間死体の山の横に立つと、犬が空気をかぎながら側にいた。それから少年は向き直りブーハーを見て 「祝福されたね。平和主義者が」と言った。 ブーハーは「アーメン」と言い、彼らは黙っている群衆と一緒に、押し進んだのだった。 ・・・とざっと訳して自分が先を読みたいので つづきます |
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