
| ビル・ハリスというBBCの広報担当のチーフが、アメリカの大使館の招待に喜び興味をそそられた。グローブナースクエアへ行く途中タクシーの中で、彼はポケットのカセットに触れて、ブレナンがなぜ興味を持ったのだろうと思った。ドイルという名の男が大使の前任者に任命された時、記者会見のために彼らはその男のオフィスに呼び出され、リポーターだけがその男が自分の頭を吹き飛ばしているのを発見したのだった。ハリスはその頃若いリポーターでドイルの自殺の動機を探して他の者を追い回したが、何も分からなかったのを思い出した。 「大使がすぐお会いになるそうです」 ビルは秘書に微笑み中に入った。ブレナンは挨拶しようと手を差し出すとハリスはアメリ合衆国の国璽尚書での過去が頭をかすめた。ここでドイルの脳みそは弾丸で飛び散ったのだ。ハリスはその写真を見たことを思い出した。それはあまりに猥雑だったので公表はされなかったが、カメラマンの間で出回っていたのだった。 「よく来てくれましたね」 とブレナンが言った。 「お役に立てればいつでもよろこんで」 「あのテープを持ってきてくれたかい?」 ハリスがポケットからそれを取り出すとブレナンはテレビの方を指差した。ハリスがカセットを入れている間にブレナンはコーヒーを入れた。 2人は コーヒーをすすり落ち着くとスクリーンに番組のタイトルがいっぱいになった。「世界の焦点」だった。 1人の女性がカメラを見て微笑み導入を開始した。 「ケイトは、美しい女性でした。」 と、ハリスが穏やかに言った。 「そして、優秀だった。」 「君は、彼女を知ってたのかい?」 「漠然と。悲劇でしたね。彼女まだ若かったのに。」 「ハリス、君は信心深いか?」 ハリスは予想外の言葉に瞬きをした。 「すいませんがちがいます」 「彼女は癌で亡くなったと思っていたが」 とスクリーンを見つめてブレナンは言った。 「ええ。」 「神と同等になることは難しいんだろうか」 「そう思いますよ。多くのことは悪魔の仕業だと言っていい」 「全くだ」 ブレナンが言った。 「ああ、それがソーンなんだ。」 ケイトレノルズがダミアン・ソーンとのインタビューを開始したので、2人はコーヒーテーブルのそばに対座して熱心に見つめた。 「インタビューはちょうど2分続きます」 と、ハリスが言った。 「おかしいことに、いい話が続きました。ソーンが力強く横切って来ます。面白い光景です。」 2人は無言で見つめた。ハリスは椅子の端にすわって身を乗り出していた。 「もうすぐですよ」 と、ハリスがささやいた。 ダミアンは、生き生きと話していた。熱心に聞いている女性を写していたカメラが女性が天井をちらっと見たのを捉え、突然ホラーの場面に変わった。何かがテーブルを通り越して激突したのだ。それは画面の外で逆さに吊るされて揺れている男の体だった。 「ここでダミアンは去ります」 ハリスはささやいた。 「見ると気持ち悪いですよ」 ブレナンが瞬きもしないでスクリーンを見つめているのでハリスは解説を続けた。 「かわいそうにこいつは照明の台から落ちて、ロープが足に絡まりカーテンを通ってスイングし、照明が爆発し火に包まれたんです。」 スクリーンは真っ白になった。 「逆さになってナイロンのカーテンに包まれたんです。奴は哀れに料理されて死にました」 ブレナンはソフトに口笛を吹いた。 「ダミアンが最初に現れた所に戻すことができるかな?」 ハリスがボタンを叩くと再び男が画面をスウィングした。 「そこで止めて」 ブレナンはスクリーンに行ってそれを見つめた。 「また進めてもらえる?」 ハリスは言うとおりにした。 「止めて」 再びブレナンがスクリーンをその男の顔を凝視した。男の顔は叫び声でゆがんでいた。 「あれは何だと思う?」 ブレナンはスクリーンの下の方の金属片を一つ指差した。 ハリスは肩をすくめた。 「わからないです。たぶんクレーンから落ちたものでしょう」 「ナイフじゃないか?」 「ナイフ?」 ハリスは唖然として繰り返した。 「ナイフは見つからなかった?」 「ええ。」 ブレナンはハリスからリモコンを受け取り黙ってテープを早送りしたり巻き戻したりした。 「何も発見されませんでしたよ。」 ハリスは続けた。 「完全なミステリーですが、関連したナイフはなかったとはずです。」 ブレナンは頷いてビデオカセットを取り出し、それを返した。 「まあ、とにかく感謝するよ。来てくれてありがとう」 ドアのところでブレナンはハリスと握手をした。 「このことは口外しないでくれるね?単なるくだらない自分の好奇心なんだ」 ハリスは唇に指をたてて微笑んだ。 「もしなにかできることがあったら・・・」 とブレナンは言った。 「あ、今ちょうど社会生活面のシリーズ物を企画してるところなんですよ。」 「なるほど」 とブレナンは興味なさそうに言った。 「秘書に話してみよう。何か用意できるかもしれない」 ハリスは建物を出て会話を振り返りながらタクシーを呼んだ。とにかく支離滅裂で、確かに奇妙だった。おそらくブレナンは病気なんじゃないだろうかとハリスは思った。 午後はずっと真面目に働いたブレナンは、秘書が帰ってしまうまで待ってから家に電話した。マーガレットが出かけていてよかった。ここで嘘はつきたくなかった。ブレナンは遅くなる、9時半くらいに戻ると留守電話にメッセージを残しオフィスを出て駐車場へ行くためにエレベーターに乗った。 夕方の交通渋滞がなくなるまで1時間かかり、さらに40分裏道を運転してバークシアへ向かった。2回停車して地図をチェックしT字路に着いて左へ曲がった。高い垣根が側面に並ぶ幅が狭い田舎道だった。窓から肥料の匂いが漂っていた。ブレナンは窓を閉め、運転を続けた。その道には何もなく農家さえも見えなかった。ブレナンは走行距離をチェックした。デ・カルロのメモによるともうすぐだそこに着くはずだ。角を曲がると前方にパブの明りが見えた。ブレナンは駐車場として用いられている小さい庭に乗り入れ車を降りて空をちらっと見た。光が雲で覆われていた。星があるべきだとブレナンは軽率に思った。何か出身地を示すためのものがあるべきだと。 パブの灯りが誘っていた。ブレナンは中を見た。狭いところだった。伝統的な居酒屋で天井が低く、重く黒い光線と馬の一緒に真鍮の馬が鋲で飾られていた。夕方で暖かいにもかかわらず暖炉が燃えていた。 ブレナンはまず飲むことに決めた。一人で。最近はいつも1人だなと思った。 店の主人は蜜蜂のような腹をしてカイゼル髭の赤ら顔で眼がキラキラしていて空想上の大袈裟な風刺マンガのようだった。 ブレナンはブランデーのラージサイズを頼んだ。 「ダンナ、アメリカンかい?」 「いや、ソーダ割りで」 パブの主人はガハハと笑った。 「ちがうよ。アメリカ人かって意味だよ」 「あ、ああ、そうだよ」 ブレナンは周りを見まわした。バーカウンターと火の回りに座っているのは村人のグループだった。1人がウィンクしたのでブレナンは笑い返した。そして今にも彼らが一列に並んで一杯飲むためにホラ話をしそうな気がした。しかも自分が去った後は自分の背中でクスクス笑うだろうと。 しかしそうではなかった。店の主人の娘はロスに住んでいて、この前の冬にも彼はそこを訪れていた。ブレナンは幸いにもこの男がいつもの決まり文句がないのに気付いた。かなり理にかなった意見を持ち店の奢りで飲み物くれた。3杯目のブランデーを飲むと、ブレナンは質問しても大丈夫だという自信を感じた。 「そうとも」 と、店の主人が答えた。 「このあたりにゃジプシーがたくさんいる。みんな汚いやつさ。」 「ここでの変わった誕生についての話は覚えてないかい?20年くらい前なんだけど」 店の主人は再び笑った。 「どんなジプシーだって変な誕生だよ。いったいどういう意味だい?」 ブレナンは肩をすくめた。 「そんな話を聞いただけだ。それだけだよ」 「ダンナ、レポータかい?」 「いや、単なる観光客だ」 店の主人は頷き、もう1人の客に応対するために立ち去った。ブレナンは飲み終えて店を出る為に立ち上がった。妙に失望して時間を無駄にした自分に怒りを感じ、なぜ来たのか、そして、いったいこの世で何を見ると思っていたか疑問に思いながら。ブレナンはすばやく一箇所を見て妻のいる家に帰る決心をした。 ブレナンは店の主人と村人に頷きながらおやすみと言ってパブを出た。ブレナンが行くのを見て、店の主人はバーの羽扉を持ち上げてドアを半分押し開け、自分の犬が出て行けるように後ろに下がった。犬は道の向こうでブレナンの後を追ってその頭を上げ風を鼻から吸って雲をのぞき込み黙って前進した。その足は泥に足跡を残さなかった。 ブレナンは荒れた畑の地面に立って、騙されたと感じた。 泥と雑草の茂みだけがあった。何も感じなかった。教会に入ったとき経験した敬意の暗示もなく、感じたのは靴底を通して染み出ている湿気だけだった。ブレナンはくしゃみしたくなり、苦笑し、夕刻の半分を無駄にしたことを呪った。ブレナンは後ろを向いたが、もはやパブを見ることができなかった。目を細めて前に進み、屋根のアウトラインを見た。すでに灯りが消えていた。腕時計をチェックした。まさかこんなに早く閉まらないだろう。ブレナンは肩をすくめた。商売にならないじゃないか。ブレナンは震えながら車に駆け戻った。風が吹いてきて寒気がしてきた。 車に滑り込むと、また肥料の臭いに気付いたがどうにもならなかった。赤い警告灯が電気の故障を物語っていた。ブレナンは文句を言い、故障はファンだけで他はなんでもなく家に帰る妨げにはならないように願った。 庭を出ると、雨が降ってきて最初のしずくがフロントガラスに跳ね返った。ワイパーは死んだ虫をガラスに塗りたくった。フロントガラスウォッシャーを叩いたが、これも壊れていた。悪臭はさらに悪化してきた。ブレナンは窓を開けるべく再びボタンを叩いた。自分を呪い、湿気がふくらはぎに上がってきたような気がして靴の中のつま先を曲げた。 「湿気上昇か」 とブレナンはつぶやきにやりとした。車がスピードを上げたとき、犬が見ている気がして左の方をちらっ見て、通り過ぎてバックミラーをチェックしたが、そこには何も無かった。 眩暈を感じた。ブランデーが感覚を麻痺させ、その刺激臭が肥料の悪臭が混ざり合っていた。 ブレナンは思い出そうとした。何杯飲んだっけ?3杯だ。影響及ぼすほどの量じゃないし、こんなにフラフラになるには不十分な量なのは確かだ。 雨が激しくなり、ワイパーがかろうじて動いてフロントガラスから虫を取り除いた。外をじっと見ると前方に交差点が見えた。Tの形をした標識はロンドンは左と示していた。道には何もなかった。ブレナンは自動的にバックミラーをチェックしてブレーキを踏みこみ車をスピンさせた。 森に刺さっている標識に何か小さくてピンク色のものがぶら下がっていた。引き返して近くに行ったが何もなかった。ただの光の加減だった。再び臭い息があがり、アクセルを踏んだが車は反応しない。 ブレナンは左右を見た。また車がスピンした。まるでスピードが出ているように垣根が両側を過ぎたが、何も起こらず何もしていなかった。まったく機械の制御をしなかったのだ。 クラッチを踏み、ギアチェンジした。再び眩暈がして頭がぐらついた。悪臭で吐き気をもよおした。咳をしてはきそうになり、それからもう一度バックミラーをちらっと見た。想像していた恐怖は子供の形をして見返してにこにこしていた。歯がなくてみだらに彼を笑っていた。 ブレナンは叫び声をあげて見たものを消すために手で目を隠した。車は道を横切り水のびだしの溝の方へ回転した。叫んだまま頭がフロントガラスに激突した。 マーガレット・ブレナンはぼんやりとテレビ画面を見つめて、時折時計をちらっと見ていた。 電話が鳴った。 「はい。」 と、明るく言ってそれから肩をすくめた。 「いいえ。彼はまだ戻りませんの。もどったらお知らせしますわ。」 マーガレットは困り果てて、ソファーに倒れこんだ。彼女の目はぼんやりとテレビを見続けた。 30分後、再び電話が鳴った。 マーガレットは受話器をつかんで、3回「はい」と言った。 「どの病院?どこ?正確に」 そうして、彼女は受話器を降ろして、ドアへ走った。 その子供は目を大きく見開いてブレナンを見つめて微笑、み、そして、痛みで顔をしかめた。赤ん坊が泣いたので優しくささやいて触れたが、その手を見つけることができなかった。体は冷たく、脇に深い傷があった。彼は小さい肩に沿って指を走らせると、激しく木の十字架に押しつけられるのを感じた。そして、彼がその指に達したとき、釘の先端あたりが曲がっているのに気がついた。 ブレナンは叫んだが何も音はしなかった。目をそむけようとしたが、目を閉じることができなかった。自暴自棄で釘を引き抜いたが、赤ん坊はより強く握り、その苦しみにもかかわらず笑いかけた。その笑みは哀れみと赦しだった。 ブレナンは小さく脈打っている頭に触って木に走り書きされた銘を読もうとしたがラテン語だったので分からなかった。 きっと、誰か助けるはずだ。ブレナンが背を向けて走ると悪臭がついて来た。それは他の子供の悪臭だった。毛皮と粘着物で覆われて微笑んでいた。その子供は開きっぱなしの口と鋭い爪があった。 ブレナンはその時声を聞くことができたが何も見ることができなかった。 「100人の死んだ赤ん坊についてのものだ」 と、彼の耳の近くで男性の声がした。 「磔にされた子供とは別のもの。」 「はい」 と、彼が叫びなら言った。彼はその声と話たかった。しかし、彼自身の声を聞こえるようにすることができなかった。 「しかし、彼は身体的にはOKなんでしょう?」 女性の声は心配そうだった。ブレナンは女の名前を呼ぼうとしたが、覚えていなかった。自分の妻の名を思い出すことができなかった。手が伸びてきた。ブレナンがそれをつかむと、針が刺さるのを感じた。そして、目の前が暗くなった。それでもブレナンは助けを求めて叫び続けた。誰か十字架から赤ん坊を引き剥がしてくれと・・・ その手は、やさしく柔らかかった。女性の手が額にあった。ブレナンはそこに手を伸ばして捕まえた。目を開けようとしたが、出来なかった。手でなぞりかさぶたに気付いてその手の指で止まった。全て大丈夫という女性の声がした。赤ん坊のように自分の指の間にそのかさぶたの熱を感じながらまだブレナンはその指をつかんでいた。小さい円の塊があった。強く握ると痛みの悲鳴が聞こえ、麻酔のせいだと感じ、暗闇になった。 ブレナンがついに目がさめたとき、自分のイマジネーションを一掃して、幕が開いたのを意識した。こめかみがズキズキして痛かったが悪夢は去った。ブレナンは瞬きして何があったことを思い出そうとしたが、記憶は期待を裏切った。自分の顔を触ると、頭に包帯が巻いてあった。ブレナンはゆっくり起き上がり、眩暈を感じ背をもたれ、ベッドから出て足を出してドアまで行こうとした。ベッドのサイドテーブルで鏡を拾って見るかもしれないものを恐れて自分自身を目を細めて見た。自分自身の顔だった。包帯の下で腫れてはいたが、自分の顔だった。 「フィリップ!」 ブレナンが見上げてドアのところの妻を見た。彼女は微笑み、近寄って来て軽くキスをして、ブレナンの足をベッドに戻した。 「すごく混乱してたのよ、あなた」 マーガレットは元気よく言った。 「話してくれ」 「車が衝突したの。血まみれでぶらついているところを発見されたのよ。そして・・・」 「赤ん坊は救ったのか?」 「ずっと幻覚を見てたのよ」 と子供に対するようにマーガレットは笑いながら言い、 「驚かないで。頭のこぶのせいよ。」 と言って彼の額をなでるとブレナンはマーガレットの手首を掴んだ。記憶の断片は心をゆらめき、そして消えた。 「さあ、寝ましょうね」 とマーガレットが言った。ブレナンは目を半分閉じたが、部屋の外で彼女を支配するものを見ようと目を開けた。売春婦のように彼女のヒップが揺れていた。そしてブレナンは彼女が自分にどういう感じか聞かなかったのに気付いた。まるで気にかけていないかのようだった。ブレナンは目を閉じてため息をつき、眠りにおちた。あの赤ん坊が救われていますようにと神に祈りながら・・・。 ・・・なんかよくわかんないとこがあるけどざざっと訳して先を読むため ひたすらつづきます |
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