第2部

第15章

  生まれて初めて大使の秘書は言葉を失った。ボスが旅行鞄を詰めるのを見ながら彼女は取り乱し、右往左往して髪を掻き揚げた。
「何でローマに?」
彼女がついに尋ねた。
「なぜよりによって今なんですか?」
「歯みがき、カミソリ、デンタルフロス」
と、ブレナンが言った。
「今日の午後ホワイトホールに出席なんですよ。とてもそんなこと・・・」
「ハリーに送ってくれ」
ブレナンはバックのジッパーを閉めた。
「どうせ報告だけだろ。言い訳しといてくれ。得意だろ。明日の昼食までには戻るよ。」
秘書は不満そうにブレナンを見た。
「でもせめて誰に会い行くのか教えていただけません?」
「狂った修道士に会う予定だと行ったら君は信じるかい?」
ブレナンは微笑みその後ろで秘書は肩をすくめた。秘書は思った。そうだ。最近振舞ってきたようにとにかく信じてればいいと。
「また明日」
とブレナンは言ってバッグを肩にかけて部屋を出た。切れた額の上はバンドエイド、黒い目はサングラスで隠して。
 秘書はエレベーターに乗るブレナンを見てから、椅子の上で背を伸ばしてくるりと回って国璽尚書を見つめて、2台の電話をもて遊びインターコムをなでて、デスクトップに沿って彼女の指を走らせた。
「プレッシャーだわ」
秘書は大声で言った。誰もできやしない。責任の重荷のまったくない歩兵の方がずっとましだと秘書は独り言を言った。  秘書は立ち上がり椅子をぽんと叩いた。
「ほんとにくだらない」
そう言って自分のデスクにぶらぶら歩いて戻った。


  フランスの全域で南東に走っている小型ジェット機の中で、ブレナンは穏やかに指を包帯に押しつけた。彼は、ギザギザの縫い目を感じることができた。軽い傷跡があるが、何も心配することはないと医者は言った。外観は損なわれないだろうと。扱うのがより難しかったのは心の傷であった。 ブレナンはポケットから電報を取り出しそれを読んだ。文面には嘆願の感情が隠れていた。聖職者は死にかかっていて自分に会う必要があると。ブレナンは病院のアドレスを見つめた。病院を見つけることのは簡単だろう。 ブレナンは窓をちらっと見て、馴染みのルートだと気がついた。ロバード・ソーンがこのルートを旅した。ドゥーランも、そしてフィンも。
ブレナンは乗務員に呼びかけて飲物を注文した。
「でも、僕はまだ暖かい。」
と、彼は独り言をつぶやいた。
「お客様?」
乗務員は不審そうに彼を見た。
「なんでもないさ」 とブレナンは言った。
「まさに魅力的な運命だ。」
ジェット機が滑走路の一つに着陸し、ブレナンはすばやく手続きをし、借りたハイヤーに乗り込んだ。秘書が事前に電話してくれてうまく行くようにしてくれた。ブレナンはローマの官庁が匿名の彼の要請について何を考えるだろうと思った。おそらく何もない。彼らには仕事が十分ある。一外交官の個人的な旅行なんか気にしないだろう。

 東へドライブしてその村を見つけるのに2時間かかった。その病院は道から外れて視覚に入らないようになっていた。ブレナンはその看板を見て不平を言った。それが精神病院であろうとは思いもしなかった。ブレナンは入り口に車を止めてシートで背伸びをしてため息をついた。時間を無駄にしてしまった。自分が思い描いていたイメージでは、ベッドの側に立ち自分を清めてくれて優美に死にゆく威厳のある老人と話していた。そこには花と優しいイタリアの風があったのに。それなのに自分はよだれをたらしている狂人に遭遇しようとしているのだ。  ブレナンは怒りながらエンジンをかけ、タイヤが埃をあげる中運転に戻った。

 病院はとても小さい窓がある小さい平屋だった。中を歩きながら不合理に怖いと感じた。もし中に閉じ込められたらどうだろう。誰にも見つからないだろう。ロンドンの誰もが自分がどこにいるか知らない・・・。ブレナンは自分を呪い、受付係に微笑んで聖職者に会いたいと頼んで自分の名前を伝えた。待つように言われ、しばらくすると通路の一つから青年が現れた。ブレナンは、その顔をブラザー・フランシスと認めて、発作的に罪の意識を感じた。もし最初にこの男の話を聞いてさえいれば、たぶん若干の命は救われただろうにと・・・。
「 あなたのご旅行に感謝します」
修道士は手を差し出しブレナンの肩を掴んで抱きしめた。ブレナンがあとずさりすると修道士が泣いているのが見えた。
「彼はどうなんです?」
「もうすぐ安らかになられます」
とフランシスは言い、ブレナンの腕をとって通路へ導いた。
「しかし、なぜ彼はここに?この中は・・・」 言葉が出こなかった。
「精神病院?」
電極と抗議している患者が心の中で交錯した。
「他人の迷惑になると言われたんです。イギリスに行く為に村で使者を探しながら彼が世界の終わりについて話していたのに。私たちは、自分たちが修道院で彼の世話をすることができると言ったんですが、彼らが主張して…」
  ブレナンは「彼ら」が誰なのか聞きたかったが、黙って修道士の後に続いた。そしていつも彼が病院でしていることを感じた。内側が異なる不運な人々だ。 ブレナンはすぐにでも外に出たかった。外の空気を吸いたい。しかし、まるで彼の考えを読んだように修道士はブレナンの腕をしっかりとつかんだ。

 2人は地下通路の階段を下りた。空気は冷たくなり照明も悪かった。まるで訪問客がはっきり見ることを許すべきでないとでもいうように。  フランシスは通路の突き当たりのドアをノックした。緑のユニフォームを着ている男性の看護婦が外を見てうなずき彼らを入らせるためにわきへ寄った。ブレナンはクレゾールのにおいを嗅ぎ、修道士の後を追って中に入った。小さな部屋だった。折りたたみ式のシングルベッドと洗面器、そして便器があるだけの個室だった。本能的にブレナンは窓をちらっと見た。鉄格子はなかった。しかし、誰にとっても放り込むには狭すぎた。  ベッドの中の人物はかすかに動いて手を上げた。
「ブレナンさんか?」
声は弱くて、かすかなかすれた音にすぎなかった。
  ブレナンはかがんで骨ばった手と握手した。デ・カルロの顔はほとんど肉がなく、口は暗く深い傷のようだった。冷えた皮膚に触れてブレナンは震えた。自分のやり方で世界を救おうとしてきた男がここにいる。そして彼のその報酬は精神病院での孤独な死だった。 「ブレナンさん、座って」 ブレナンは修道士が通路に行って椅子を引き入れるのを見た。
「お気の毒に・・・あまり具合がよくないみたいですね。」
とブレナンは言ってベッドの側に座った。 デ・カルロは頭を振った。
「同情はそれを必要とする人々のためにとっておきなさい。」
2人の男が暫くの間黙ってお互いを見つめた。
「ブレナンさん、あなたは信心深い男じゃないんだろう?」
ブレナンは頭を振った。
「それなら、なぜ、あなたはここにいるのだ?」
ブレナンは肩をすくめた。
「僕はあなたのメモと手紙を読みました。
それらは意味をなさなかった−」
「我々は合理的なものについて話していない。」
「僕は悪魔の存在を信じることができません。」
「それなら 、繰り返すが、 なぜあなたは来たのだ?」
「おそらく同情です。」
デ・カルロは頭を振った。
「それから好奇心・・・」
デ・カルロはブレナンに微笑んだ。そしてブレナンは自分は本当に利己的な理由のために旅行をしたのだと理解した。彼は、自分の靴を見た。
「僕は自分が正気でないようになっていると思うんです。」





・・・なんかよくわかんないとこがあるけどざざっと訳して先を読むため
ひたすらつづきます


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