第1部

第9章

 ヒースロー空港の ボーイング777ジャンボジェットが西へ向かって滑走路から機体が離れて斜めになった。マイケル・フィンは座席に深く体を沈めて蒸気機関車のように空気を吐き出しながら深くため息をついた。ここを立ち去れることを喜んだものの、安堵は罪悪感で染められた。たぶんもっと多くのことが出来たはずだ。しかし、彼はそれを疑った。今にフィリップ・ブレナンは興味をそそられるだろう。そのことに疑いの余地はなかったのと同様、あの男があの包みをナンセンスなお荷物として捨てるだろうということにも疑いの余地はなかった。
けれども彼、マイケル・フィンがダミアン・ソーンの死体がその墓になかったことを示したとたんに、その後ブレナンは確実に不思議に思い始めるだろう。フィンは悪評を楽しみにしていた。その話は掘り返し土と一緒にやってくる「シカゴトリビューン」リポーターの1人とともに始まるだろう。フィンは言葉遊びに微笑んだ。
 フィンはすでに何人かのりポーターに会って、彼らがこの話にどう取り組んだか知っていた。まもなくソーン帝国中いたるところで質問しているだろう。トーマス・ドゥーランのひどい死に方はまったくムダではなかったのかもしれない。
 
 フィンはデニスという彼の楽しいフライトを祈っているという赤毛のスチュワーデスからマティーニを注文した。彼女の微笑みはプロのしかめっ面より誠実に見えると彼は思った。彼女の胸がフィンのトレイを直そうとして彼の肩をつついたのでフィンは彼女がウィンクするのを想像した。フィンはジンをすすりながらあまりにばかな老人の空想にありえないことだとクスクス笑った。映画の間彼女が隣の空席に押し寄せ、再びフライトを楽しんでるか聞き、なにかできることはないかと聞いた。

「いや」フィンがささやいた。「すべてが素晴らしい」

2人は一緒にロサンジェルス警察かなんかについての映画を観たが、フィンは集中することができなかった。再びこの接近が故意であるという大胆な考えを持った。ちょっとした接触だと再び自分の想像力を呪った。このようなことは起きない。もし起きたとしても飛行機にたくさんいるがっしりした若者にだろう。
映画は砲火の爆発でクライマックスに来た。デニスは彼の近くに傾いて、コーヒーを出さなくてはとささやいた。なぜ彼女は厨房に行かずスクリーンに瞬きしているのだろう。どうして?本当にどうして?





 デニスははジャケットと帽子を脱いでキャビンの壁にもたれて座っていた。彼女は義務で飲むつもりはなかったといいながらウォッカをすすっていた。時折彼女は頭を突き出して通路を見上げた。リラックスしたときはキャンディーをなめるのと彼女が言った。デンバーから来たのよ。あなたはどこから?のどかわいた?ヨーロッパには仕事それとも遊び?
フィンは出来る限り彼女を見ないようにして無関心なままいようとしながらじっと丸窓を見つめていつもそうしているかのように酒をすすりながら答えた。
「飛行機は好き?」
「いや」彼は言った。「私はどうして金属の塊が地面から離れるのか理解できない者の1人だからね」
「私もよ」と彼女が言ってくすくす笑った。
「私がいいたいのは」フィンがその考えに心を惹かれながら言った。「なんで車輪を持ちあげて運ぶことを強く主張するのかってことだよ」
「それは車輪が降りないと飛ぶことができないからよ、ばかねぇ」
「そうだ、でももし、降りてこなかったら?」
デニスは笑ってフィンの手を取って向きを変えフィンをひっぱりながら厨房を通って小さいエレベーターに入り込んだ。
「車輪はいつも降りてくるわ」とデニスが言った。「見せてあげる。厨房の下のフロアーよ、ほら」
デニスは外に踏み出し、フィンが酒をしっかりにぎって後に続いた。かつてマンガを読んでた日々が思い出された。主人公はいつも夢じゃないかたしかめながら自分をつねっていた。デニスはオーブンとバーの箱とワゴンの間を縫うように進み、彼に進むように合図するために振り返り、笑いながらワゴンの間に挟まったフィンを引き出し、フィンが彼女につまずくと、彼の鼻をつねって、彼から離れ、重いドアの方へ躍り出た。デニスに追いつくとフィンは息を切らしてジンをごくごくと飲み、脈拍が速くなり心臓が肋骨に強く当たるのを感じた。

 「車輪はそこを通ったところよ」デニスが言った。「中央貨物室に」
彼女は赤く輝く電球をちらっと見た。
「いったん加圧レベルが下がると、光は緑になって入ることができるの」
「それはどのくらい?」
とフィンは尋ねた。何時間もかかることを祈りながら。
「さぁ、行きましょう」
デニスは言い、ドアを押し開けた。温度差に震えながらフィンも中央貨物室へと彼女の後に続いた。フィンは最後のカクテルを飲み干し、貨物室を独占している大きい鉄のコンテナへと近づいた。

「上へ」
と彼女が構造物の天辺へとはしごを登りながら言った。フィンは彼女の後に登って天辺でしゃがんだ。
「これはとてもいい車輪用ベイよ」
とデニスはハッチを引き戻して言った。
「見たら?」
フィンがハッチを通して数インチ下の大きい車輪を凝視した。
「16」
とデニスが言った。
「4つずつの車輪がそれぞれ4つ上がるの。高さは5フィート」
フィンは彼女のいかにして水力が働くかの説明を半分聞きながら、ありえないことだが、もし誤って手動で車輪のドアを開けたら自分たちは簡単に落ちるんじゃなかと不平を言った。
「重力でしょ」
「あ、ああ」
フィンはだまされたと感じた。デニスが車輪を見せようと申し出ていたとき、彼は実際に車輪を見せるつもりだったと思わなかった。
「ほら今よ」
とデニスがフィンの横に膝まずいて言った。航空機の胴体の入口がスライドして開くときフィンに水力のシューッという音が聞こえた。突風がフィンのシャツをはためかせ、彼の呼吸を捕らえた。
「見て、車輪が動き始めてる。だから何も心配する必要ないわ」
フィンはエンジンと風のうなる音でデニスの言うことがほとんど聞こえなかった。車輪を通して見下ろすと下にニューヨークの郊外の家々が見えた。フィンは再びハッチの縁をしっかり掴んで震えた。フィンは自分を笑った。デニスの選んだ時はおかしかった。フィンが前に進むと風が彼の喉を捕らえ、彼の両腕が激しく動き、車輪の支柱に捕まった。彼の顔がラバータイヤにぶつかり片足が押しつぶされた痛みで叫び声をあげた。フィンはタイヤをぎゅっと掴んで肩越しに振り向くとデニスがハッチを閉じながら彼に手を振って微笑んでいた。
 
フィンはラバータイヤをしっかり握りながらずるずると前に滑って、まったく動くことができなくなった。 彼の鼻はタイヤのトレッドに深く押し付けられ、滑走路を離陸するとき拾い上げたものの臭いを嗅ぎ、糞だ、イギリス人の糞だと狂人のように思った。すすり泣きながらフィンは支柱の上に戻ろうとしたが、彼の足は捕らえられていて、彼の体はジェット気流で機体に強く押し付けられておりそこにのりづけされているかのように平らになっていた。フィンは泥を掻くようにゴムを爪で掘りながら前に出た。剥けた薄皮が後ろに飛んで彼の顔の片眼に突き刺さり涙を出させた。下にケネディ空港がチラリと見えた。妻はそこにいるだろう。おそらく今現在展望エリアに立って空を見て自分の乗っている飛行機を探していることだろう。フィンはタイヤで顔をこすり、デニスが言っていたことを思い出した。時々タイヤが滑走路に何かの力が当たると、それがゴム1インチでもタイヤがこげると。フィンの視界はきれいになり、そして今彼の前方には滑走路が見えた。ゆっくりとそして痛々しいほど頭を上げてフィンは叫び声を上げた。





翼の上の窓側の席に座っている幼い男の子は母親の手を握って静かに泣いた。スチュワーデスが彼に向かってどうしたのと微笑んだ。
「飛行機が初めてなんですよ」
と母親が言った。
「まただよ」と男の子は
助けを求めてスチュワーデスの顔を探して言った。
「叫び声が聞こえるというんです」と母親が言った。「それはただの風よって言っているんですけど」
「そうよ」
とスチュワーデスが男の子の手を軽く叩いて言った。
「私たちは時速200マイルで飛んでるの。それはただの風よ」
男の子が自分の席の中に深く縮こまると、滑走路に近づくのが聞こえた。それから少年は耳の中に指を挿し叫び声が止むのを待った。コブがあり、ゴムがコンクリート当たると悲鳴と押し戻されたエンジンのうなる音がして、それからターミナルゲートに近づくと優しいうなりになった。航空機が停止するまで男の子は目を開かなかった。そして男の子が下を見ると、車輪にかつてマイケル・フィンだっためちゃくちゃなものを見つめてメカニックが怯えてすくんでいた。
「今、叫び声が止まったよ」
と少年が母親に微笑みながら言った。

こ、こわ〜〜〜といいつつ、第1部完
第2部へつづく


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