第1部

第7章

その電話はローマからのパーソナルコールだった。ヴァチカンに電話をかけさせたのだととんでもないことを考えて期待していたトーマス・ドゥーランはちょっととがっかりしてマイケル・フィンの声を聞いた。 そして受話器を置くまでには、自分の弱さを呪っていた。壁の十字架をじっと見つめ、なんであんなことをすることに同意したのだろうと思った。それはある種神の冒涜だった。たぶん法律までも背くことだ。
でも、フィンは教会にとってずっといい後援者だったのだから・・・と自分を納得させた。教会の屋根がいまだに手入れが行き届いているのはまったくもってマイケル・フィンのおかげでだった。
でもまだオルガンがある。いつもどこか壊れてるか部品が落ちていた。トーマス・ドゥーランは、神の利害には抜け目がない現実的な男だった。魂を救うには財政のバックが必要だ。だからこのローマの男の頼んだこともするつもりだった。

ドゥーランがフィンから教えられた番号に電話して援助を頼むと、その電話の向こうの声の主はこの上もなく喜んだ。タクシーで1時間ががりでその住所をみつけ、ある機械を手に入れ、ソースサイドの墓地に引き返したドゥーランはタクシーに料金を払うと門の側に立ちフィンの友人が貸してくれた機械をよく見た。それはスプーン型をベースに3フィートの軸があり、ハンドルにダイヤルとカラーのTVスクリーンがセットされていた。フィンの友人はこれは最新機種で高感度、地質学者やアマチュア採鉱者の必需品だと誇らしげに言っていた。
トーマスは6フィートにダイヤルを合わせてスイッチを入れた。機械がうなり、きわめて鮮明にシカゴの下層をスクリーン上に判読させることが出来た。彼は驚異でショックを受け、ちらりと空を見た。雲一つない夜だった。いたずら半分に探知器を星空に向けスクリーンを目を細めて見た。何も映らない。ダイヤルの範囲は50フィートだった。残念だとドゥーランは思った。もし無限に届くならきっと創造主を見つけられただろうに。
彼はスイッチを切って、墓地の門を押し開け探知器を草刈り機のように押しながら歩きだした。ここはよく維持され、シカゴの金持ちが最後に休む場所だった。埋葬待ちのリストがあったがいささかもドゥーランのアイルランド魂に訴えるものはなかった。このたいして重要でもない 神聖な物を汚す行為も学問と思えば気が楽だ。もしそれが神の冒涜でも。

ソーン家の壮大な墓地は池のほとりにあり、輸入物の御影石でできた円形の建物が月の光できらめいていた。2つの樫の扉は閉められていたが、ドゥーランの手で開けられ油のついたちょうつがいが揺れもどり地下納骨所が現れた。
この場所については精巧なものはなにもなかった。部屋は円形で奥まった小室の中に額が鋲で打ってあり、揺らめくひとつの炎で照らされていた。落書きは何もないことが分かった。ここは街の中でよく見る殴り書きがない数少ない建物の一つだった。
ドゥーランは部屋を歩き回り、ソーン家の棺に記された額を読みながら4世代さかのぼっていった。最大の記念品だ。
「ロバート&キャサリーン・ソーンの思い出のために。一緒にニューヨークに埋葬。そしてリチャード&アン・ソーン。彼らの魂の安らかならんことを」
ドゥーランはあとず去って、向き直りフロアの真ん中に配置された大きい大理石の平板をじっと見つめた。こう彫り込まれていた。

ダミアン・ソーン
1950−1982

墓碑銘はなく名前だけだった。ダミアンが死んで見下ろしてる場所だというのに。ドゥーランはその葬儀をよく思い出した。テレビで見ていたのだ。棺に付き添う人々が壮大な墓地に棺を運び、ニュースキャスターが彼の悲報について話している間にカメラの前でドアが閉められたのだった。
機械のスイッチを入れると、彼の背骨が下から上へ追うように振動を感じた。自分は無数の埋葬に参列し、職務を行ってきた。できればここを立ち去って身体を横たえ安らかに眠りたかったが、彼はハンドルを握りそれを続けた。どうせこの仕事は長くかからないでやり遂げられるだろうからと。
ドゥーランはスクリーンと大量の茶色い土ををちらりと見た。彼がダイヤルを5フィートに調節し、ピントがはっきり合ってくると泥土のX線写真がドゥーランのチョコレートバーを思い出させ、それは乱れず、滑らかでまったくまるで幾百万年も前からそこに横たわっているかのようだった。
彼は幅の広い厚板に近づき、墓の上に立ち、両足を故人の名前の上に据えた。再びスクリーンを見た。泥土の構造が変わっていた。小石で妨げられ、穴が開けられていた。彼は足の間に直に機械を置き、短い範囲を焦点に選んでダイヤルを回した。そして一呼吸置きながら、マホガニー材の棺の蓋がスクリーンに映るように5フィート1インチ、それから5フィート2インチとダイヤルを動かした。本能的に空いている手で十字を切りキチガイじみた考えを脳裏から払拭した。かつて死後髪の毛と爪が伸び続けるという話を聞いた事があったので多量のあごひげと爪を見つめることになるのではなかろうかと思ったのだ。
ドゥーランは目を閉じてダイヤルに触れ、それからやむなく再び目を開いた。スクリーンは岩、きちんとした層の平らな岩山を示していた。彼は眉をひそめ、ダイヤルを動かした。2インチ上はさらに岩だけ。4インチ下は棺の床。8インチ上にするとスクリーンは白くなっていき、2つの語が点滅した。「AIR VENT(空洞)」
ドゥーランはスキャナーを素早く幅広い厚板を横切るように足の両側に移動させて、驚愕した。岩を除いては、ダミアンの棺はからっぽだったのだ。
彼は機械のスイッチを切り、放心して、刻まれた文字をじっと見つめ、頭を振り厚板を降りた。
「酒をくれ!」彼は大声で叫んだ。「浴びるほどの酒を!」


はるか東方、かの少年が自分の礼拝堂に立ち、父の手を握って音を立てずに唇を動かしていた。汗が流れて両目に入り、そして彼の両腕に落ちて行き手のひらまで流れダミアン・ソーンの手までが湿った。少年の顔はこめかみの静脈が書いたように浮き上がり、精神集中のために眉間に皺が寄り始めた。、階下ではプレフォードの森で あのちから強い犬が西の空に頭を上げ暗闇に遠吠えした・・・。


シカゴの北、墓地の近くにあるオールニーズという店のバーテンダーは風変わりな人物の行動にはさして気を止めなかったが、禁酒法が再び来たかのようにライムギ製ウイスキーをがぶ飲みしている腕の下に金属探知器を持った瘠せた男には少し注意を払った。2回ほどその男が電話をかけに行って頭を振りながらカウンターに戻ったのを見た。
そしてまた大酒をくらい再び席を離れた。女房に電話して言い訳してるんだなとバーテンダーは推測した。
ドゥーランはオペレーターボタンを叩いた。
「イタリアのローマにパーソナルコレクトコールを」
「少々お待ち下さい」
「頼む。今度こそ・・・」彼はつぶやいた。「つながってくれ・・・」
自分の発見の重荷を共有するためにインフォメーションを素早く通過する必要があった。彼は番号を読み、待った。
「ただ今呼び出しています」
「神よ、感謝します」
彼はつぶやいて指で壁を叩いた。
「先方のお部屋は応答がありません」
「えーと、それでは彼をよびだしていただけませんか?」
「少々お待ち下さい」
フィンが電話に出るまでがうんざりするほど長く感じられた。向こうで誰かが突然歌いだしたので、ドゥーランは自分の話をするために指で耳をふさがなければならなかった。フィンはオペレーターに感謝した。ドゥーランが男の声に興奮しているのがわかった。彼は電話を切り、壁にもたれかかった。最後の一杯を飲んだら、家に帰ろうと思った。
「あなた神父さん?」1時間後バーテンダーが言った。「オレ、たくさん懺悔があるだよね」
「え?ああ・・・?」ドゥーランは彼のグラスをじっと見た。もう一杯があまりに多すぎたと気がついた。飲みすぎたと彼は独り言を言った。ショックは飲み込んだ。悪夢に悩ませられることなく眠れるだろう。

ドゥーランは暗闇でよろめき震えた。すっかり天気が変わっていた。東から起こった風が湖を鞭打って、月の上を雲が走った。彼はバーテンダーがタクシー乗り場に一番近道と言っていた墓地の門を押し開けた。探知器をインディアンがライフルを運ぶように胸に斜めに持っていて小道でつまづいた。胆汁の味がするものをげーげー吐き、ウィスキーやビールをそんなに飲んでないはずだと思いながらつばを吐いた。こんなことはじめてだ。
少しの間ソーン家の墓を見て黄色い小さな穴が動いているのを見ることを想像した。それから震えながら遠い門に向かった。脳裏をかすめるあいまいな悪夢に追いかけられながら。彼は足を速めた。風に抗い頭を下げ、急ぎ足で。しかし、どういうわけかそうできなかった。
門につくまでノンストップで走りたかったがその力がなかった。彼は咳をして、天使の像につまずき、ぶるぶる震え地面に胆汁を像の土台に吐いた。ライ麦とビールの味がした。うなりながら自分の袖で口をぬぐって再び探知機の一定で低く唸る音とスクリーンの色を意識した。

いやいやながらドゥーランはスクリーンを凝視した。今度は動物の骨だった。それは考えるに犬かハイエナかジャッカルのようみ見えた。彼が立ち上がると同時にその骨の後ろ足も蹴り出し動いた気がした。目をそらしたかった。しかし、それにもかかわらず心を奪われた。悪臭がした。ハンカチで鼻を覆うためにポケットの中にに手を伸ばした。
彼はその像を押しのけて進み、墓石が続く以外何もないの見た。祈りをつぶやき墓石につまずきながら自分の前の探知機に道案内させた。探知機は2つの墓石の側で止まった。ドゥーランはそれにもたれた。その墓石にはこう記されていた。

 ジョン&マーサ カーライト
  ともに永遠に安らかに


彼らの骨がスクリーンを満たした。マーサとジョン、彼らの骨は寄り添っていた。あばら骨の間に蛆虫が這いずり、2人の顔の周りには蝿がブンブンうなっていた。女の上に男の半身がのり性交の体位で並んでいた。ドゥーランがスクリーンを凝視すると、マーサ・カーライトの頭蓋骨が夫の肩越しに彼を睨んだ。彼女の舌が自分の大きく開いている口の周りをみだらに舐めるのとドゥーランが自分の叫び声を聞いたのは同時だった。その声の中には彼のものでない声があった。ドゥーランはめくらめっぽうにそれでもいまだ探知機をにぎりしめ夢中で走った。墓石にぶつかって、尻に痣ができたが、何も感じなかった。
ドゥーランは走り、つまずきながら「神への冒涜だ!」と同じ言葉を繰りかえし叫んだ。その声は木々の間にこだました。走りながら頭を乱暴に振りあの頭蓋骨の光景を取り去ろうとした。しかし、それは脳裏に刻み込まれ、彼はパニックで墓があいているのが見えなかった。

 銃を発砲したような音に気づくと腕に痛みが走った。振り向こうとしたが動けなかった。泥を吐き土の垂直な壁を目を細くして見た。目だけが動いていた。足は何も感じることができなかった。恐怖の発作がドゥーランを貫いたが、それと戦った。手首の痛みが精神を集中させるようとするかのようだった。麻痺は一時的なものだろう。単なる脳震盪だと彼は独り言を言った。しばらくしたら足の感覚が戻るだろう。自分の腕をちらっと見ることができた。グロテクスクなアングルで手があった。骨を折ったのは生まれて初めてだった。再びしばらく恐怖がドゥーランを捉え、彼は祈りの言葉をささやきながら目を閉じた。目を開けたると墓場にある形が見えた。目を細くして焦点をあわせると、それは犬だった。どっしりとした大きい頭、黄色い目が彼の下にきらめいていた。今やなぜこの壮大な墓の周りに落書きがなかったかを悟った。ここは夜こんな犬によってガードされていたのだ。
 ドゥーランは犬の目を凝視してヒステリィックにわめいた。たぶん助けを連れて来るだろう。彼は自分が雪崩に巻き込まれた登山家のように感じた。たぶんセントバーナードだ。酒樽を持ってたはすだ。再び喉でビールが泡だった。ゲップをしようとしたが出来なかった。すっぱい液体が口の端から滴った。悪臭から離れようと頭を動かそうとしたが、筋肉はもはや脳からのメッセージに従わなかった。
ドゥーランは犬が墓の縁の側の地面の盛り上がりの中に鼻を曲げるのを見たと同時に土がにわか雨のように顔にはねかかり小石が眉を刺した。

 「おいっ!
ドゥーランは悲鳴を上げた。犬は鼻を鳴らして地面を引っ掻いた。
 「やめ・・・!
叫んだが土の塊が喉に当たって彼を黙らせた。ドゥーランはうなり声を聞いた。墓地に2匹目の犬、それから3匹目。犬たちの向こうに空が長方形を作っていた。すでに雲はなくなっている。彼は7人の修道女と呼ばれる星の集まりを見つめた。それから再び土が彼に降り注ぐ。それにつれて星は見えなくなった。そして犬の足がひっかく音が聞こえた。犬は足の間の土を後ろに押し返しながら墓の中へひっ掻いた。

  石の欠片がドゥーランの鼻で砕け、血が噴出した。反射的に彼の口が開いた。口の中が土でいっぱいになった。まぶたの上に土がはねたのを感じ彼は目をしっかり閉じた。今や彼の願いはただ犬たちが懺悔できるほどの時間をくれるようにということだけだった。冗談抜きで臨終の儀式に創造主に会えなかった。土が唇の周りに積もり鼻孔を詰まらせる間、ドゥーランは静かに少年の時教えられていたラテン語の言葉を唱えていた。




  早朝の光の中で、墓堀人は最初それを新しい墓から小さな潅木が生えて来たと思った。かわいい5つのピンクの茎が。彼はそれに触れようと下に手を伸ばし、それから喉の奥でうめきながら後ずさりした。もう少しで墓場の側で斜めに横たわった草刈機のような機械につまずくところだった。機械のモーターがうなりながら画面いっぱいに目と口がしっかり閉じたトーマス・ドゥーランの顔が映っていた。



第1部 第8章へ

SEO [PR] 再就職支援 冷え性対策 わけあり 動画掲示板 レンタルサーバー ブログ SEO